2011年4月8日金曜日

h23.4.8 平成23年度の入学式を終えました。





式 辞


 今年も飾磨工業高等学校に春がやってきました。軽やかで晴れやかな気分を味わえることに感謝したいと思います。


 御来賓の皆様と、新入生の保護者の皆様の祝福をいただき、兵庫県立飾磨工業高等学校平成23年度入学式を行えますことに、心から感謝を申し上げます。


 ただいま入学を許可しました全日制課程200名、多部制課程200名、合計400名の入学生の皆さん、入学おめでとう。本校への入学を心から歓迎します。保護者の皆様には心よりお喜びを申し上げます。


 飾磨工業高校に合格した入学生とその保護者の皆様の、合格者発表の日に喜んでいらっしゃる姿は、私たち職員の脳裏に焼き付いています。しかしその反面、うつむいて静かに帰っていった受験生と保護者の姿を思い浮かべる時、合格を勝ち取った皆さんには、不合格になった人の分まで本校でしっかりと学んでほしいと、強く思います。


 皆様もご存知のとおり、今年の春は残酷な春となってしまいました。東日本大震災が東北地方、関東地方、さらには日本全体に大きな被害と課題を突きつける大変な状況にあります。私たちはできることを確実にやりとげながら、お互いに助け合って、この困難を乗り切らなければなりません。


 さて、宮城県名取市で被災した18歳の沼田裕也君のことを話したいと思います。


 彼は被災直後のテレビで避難所のなかで活躍する高校生ボランティアとして取り上げられていました。そのときに彼は、「家族とはぐれているのですが、父は仕切るのが好きな人なので、どこかの避難所で被災者のために活動していると思います。自分もここで活動をして、家族を探すつもりです。」としっかりとした口調で語っていました。私はそのときの彼の表情と言葉の強さから、家族の安否確認の手がかりはあるのだと思っていたのです。しかし3月27日のwebニュースで、地震の数日後に、祖母と兄の遺体を確認した。両親の安否は不明だと報道されていたのです。彼は最初から、家族の安否確認は難しいと感じていながら、カメラの前では、父はどこかの避難所で被災者のために活動していると言っていたのかもしれません。


 webニュースでは、彼は「覚悟はしている。せめて早く見つけてあげたい。」「悲しむのはいつでもできる。今はそのときじゃない。」と気丈に言っていると書いてありました。避難所では今も進んで救援物資の運搬やごみの分別を手伝っているのです。


 彼が大学に合格したとき、母親は赤飯を炊いてくれた。父親は将来について聞いてきて話をした。家族で大学の合格を祝ってくれたのだと言います。父親には「大学でも頑張るので、体に気をつけて仕事を頑張ってください。」と手紙を書いた。しかしその手紙は、津波に流されてしまって、とうとう渡せず仕舞いだということです。


 沼田君の家族は自分以外のことを優先する家族であった。地震のとき父は自転車で近所に非難を呼びかけに行った。   


 母は向かいの家の様子を見に行った。兄は近所の人を助けに行った。自分は祖母に付き添った。そして津波が来た。


 彼は4月から大学に行く予定でした。しかしそれが無理なら仕事を探さなければならないと語っています。


 皆さんはこの沼田裕也君の話を聞いてどう思いますか。私はまず彼の精神力の強さに感服しながら、次のことを考えました。


 第一に、被災し家族の安否が確認できなくても希望を捨てていない。


 第二に、彼の家族が地域に貢献しようとする家族であったために、彼もそのように育ち、祖母と兄が死に、両親の安否が確認できない状況でも、健気に被災者ボランティアとして避難所で活動をしている。その活動をすることで折れそうな自分を支えている。


 第三に、家族が持っていた奉仕の精神が沼田君の中に見事に生きている。


 さて、飾磨工業高校は、皆さんに、次のようことを期待しています。


 自分を大切にする自尊心と将来への志を持ってほしい。


 仲間や地域の中で活動し貢献する行動力を持ってほしい。


 工業高校の生徒として日本の工業界を背負う技能と技術を身につけてほしい。


 現代の高度技術社会で活躍できる知力と知識を持ってほしい。


 そしてクラスや学校全体に、地域社会に貢献する活動を通じて自分の生き方在り方を考えてほしい。


 ようやく上向きになった日本の景気は、この大震災で足止めを喰らってしまいました。しかし私たちは前に進まなければなりません。だから、皆さんには、自分の夢を実現するための具体的な目標を立ててほしい。大きな目標につながる小さな目標をたくさん立ててほしい。それを実行に移して、一つ一つ達成していってほしい。夢は望むだけでは自分のものにはなりません。目標は、実行に移して達成しなければ目標ではないのです。それは夢のままに過ぎないのです。保護者の皆様には、お子様の目標を達成するために、本校の教育方針をご理解いただき、本校の教育活動にご協力をお願いします。


 最後になりましたが、御来賓の皆様には、御多用にも関わりませず、御臨席賜り、入学式に華を添えていただきましたことに、心よりお礼を申し上げまして、平成二三年度入学式の式辞といたします。
 平成23年 4月8日


   兵庫県立飾磨工業高等学校長


     田中 哲也