2012年2月25日土曜日

平成23年度第64回卒業証書授与式 式辞 2012.2.25

式  辞



 春の気配が日ごとに感じられる今日の良き日に、ご多忙にも関わりませずご臨席いただきましたご来賓の皆様と、保護者の皆様の祝福をいただき、兵庫県立飾磨工業高等学校平成23年度卒業証書授与式を挙行できますことに、心から感謝を申し上げます。


 ただいま卒業証書を授与しました全日制195名、多部制155名、合計350名の卒業生の皆さん、卒業おめでとう。そしてお子様を育て、支えてこられた保護者の皆様に、心よりお喜びを申し上げます。


 さて、ある中学校の卒業生の答辞を読み上げたいと思います。お聞きください。


「今日は未曾有の大震災の傷も癒えないさなか、私たちのために卒業式を挙行して頂き有難うございます。
 ちょうど十日前の三月十二日。春を思わせる暖かな日でした。私たちは、そのキラキラ光る日差しの中を希望に胸を膨らませ、通いなれたこの学舎を五十七名揃って巣立つはずでした。
前日の十一日、一足早く渡された思い出の詰まったアルバムを開き、十数時間後の卒業式に思いをはせた友もいたことでしょう。
 「東日本大震災」と名付けられる天変地異が起こるとも知らず…
 階上(はしかみ)中学校といえば「防災教育」といわれ、内外から高く評価され、十分な訓練もしていた私たちでした。しかし自然の猛威の前には、人間の力はあまりにも無力で、私たちから大切な物を容赦なく奪っていきました。
 天が与えた試練というには、むご過ぎるものでした。辛くて悔しくてたまりません。時計の針は14時46分を指したままです。でも時は確実に流れています。
 生かされた者として顔を上げ、常に思いやりの心を持ち、強く正しく、たくましく生きて行かなければなりません。命の重さを知るには大き過ぎる代償でした。
 しかし苦境にあっても、「天を恨まず」、運命に耐え、助け合って生きていくことが、これからの私たちの使命です。


 私たちは今、それぞれの新しい人生の一歩を踏み出します。どこにいても、何をしていようとも、この地で仲間と共有した時を忘れず、宝物として生きていきます。
 後輩の皆さん、階上(はしかみ)中学校で過ごす「あたりまえ」に思える日々や友達が、如何に貴重なものかを考え、いとおしんで過ごしてください。
 先生方、親身のご指導有難うございました。先生方が如何に私たちを思って下さっていたか、今になって良く分かります。
 地域の皆さん、これまで様々なご支援を頂き有難うございました。これからも宜しくお願いいたします。
 お父さん、お母さん、家族の皆さん、これから私たちが歩んでいく姿を見守っていてください。必ず、良き社会人になります。
 私は、この階上(はしかみ)中学校の生徒でいられたことを誇りに思います。最後に、本当に、 本当に、有難うございました。平成23年 3月22日」



皆さんもご存知だろうと思います。これは、東日本大震災で被災した宮城県気仙沼市立階上(はしかみ)中学校の卒業式で、梶原裕太(かじわら ゆうた)君が読み上げた答辞です。全文が平成22年度の文部科学白書に掲載されました。これは極めて異例のことです。15才の男の子が、重すぎる不幸の中で、精一杯の希望と自分たちの使命を自分に言い聞かせるように、自分の決意を表明しています。


長々と読み上げましたが、被災者である彼の卒業生としての思いと社会人になる覚悟を、今日、飾磨工業高等学校を卒業する卒業生そして在校生の皆さん、そしてご出席の皆様と一緒に確認したかったのです。


高等学校卒業は決してゴールではありません。卒業する皆さんにとっては、本格的なスタートです。社会人になるとは、自分の生活のために働くことと同じくらいに、社会に役に立つことを考えることが必要です。そのことを特にお願いしたい。それが自分自身の誇りとなります。自分が卒業することで、ご家族が喜んでくれている。それが皆さんにとって大きな喜びになっているはずです。これも皆さんが家庭という社会に貢献していることの一つです。次は日本という国と社会に貢献してください。


今日、飾磨工業高等学校を卒業する皆さんと、ご家族の皆様のご発展とご多幸を、切にお祈りして、卒業式の式辞といたします。


平成24年2月25日 


兵庫県立飾磨工業高等学校 校長  田中 哲也